【ビデオレター】西村朗《樹霊I》(12/5四人組コンサート)
12/5(金)に迫った第21回「四人組とその仲間たち」コンサート。
当日初めて発表される新作について、作曲家の西村朗さんから届いたビデオメッセージと作品解説をご紹介します。
西村 朗《樹霊I》2本のクラリネットのための
- 演奏:板倉康明(Cl)、西澤春代(Cl)
演奏所要時間:約13分
作曲者による解説
- 今年(2014年)の1月末、ふと思い立って奈良県天理市にある石上神宮(いそのかみじんぐう)に詣でた。「日本書紀」に記された日本最古の神宮のひとつである。
6世紀の後半、新興の蘇我仏教と争った物部(もののべ)神道の拠点。武術と呪術に長けた物部氏の氏魂、すなわち布都御魂大神(ふつのみたまのおおかみ)の神霊が宿る布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)を主祭神とする。
宝物では、西暦369年にあたるとされる百済年紀の金象嵌銘文が刻まれた「七支刀」(ななつさやのたち/国宝)が、知られている。
この神宮は、物部神道の言霊(ことたま)の霊威を伝え守る場所でもある。
特に、「布瑠の言(ふるのこと)」と呼ばれる神呪(しんじゅ)は、古来、死者をも蘇生させる強い霊力を持つ祓詞(はらえのことば)とされている。
〝一二三四五六七八九十、布留部由良由良止布留部(ひふみよいむなやここのたり、ふるべゆらゆらとふるべ)(「布瑠の言」)〟
当日、境内に人影なく、この神呪を静かに唱えつつ神宮内外を遊歩し詣でた。
古い巨木のざわめき、丈高い樹林の密な葉陰から降り注ぐ太陽の霊光。
布留山から下りくる苔に湿った冷風と遥かな古代からきたるような薫香。
拝殿奥の禁足地からただよいくる物部神道の霊気。
それらに包まれて、次第に忘我の心境に入った。
この二重奏曲は、その時の特異なめくるめく感覚と印象にインスピレーションを得て作曲されている。
その体験を刻印するため、終結部の第一クラリネットのパートに反復微音奏による「布瑠の言」を置いている。
演奏時間は13分程度。
(西村 朗)