CONCERTO FOR CLARINET AND ORCHESTRA "The Principle of Whirling（2024）

板倉康明さんは、優れた音楽家として稀有な存在だ。数多くのシーンで、お世話になってきた。ある時は指揮者として。ある時はクラリネット奏者として。いっぽう僕は、10代のころ、クラリネットに親しんでいた。吹奏楽の、またジュニアオーケストラの一員として。そのことを知っている板倉さんが、ある時「クラリネット協奏曲を書かなきゃおかしい」と僕に言ったのだ。4 曲のピアノ協奏曲はじめいくつもの楽器に協奏曲を書いてきた者として、その通りだと思った。筆を執るまで、多くの時間を必要とはしなかった。明確な発想があったからだ。その音域の広さを活用すること、矩形波の美しい音色を生かすこと、卓越した運動性を発揮させること……。得意技である旋回を駆使しつつ、オーケストラへそれを伝染させる独奏クラリネット。この伝染の仲介役は、オーケストラの中のクラリネット。この構図こそが、発想であった。板倉さんが牽引する東京シンフォニエッタの、板倉さんによる「吹き振り」。その光景と音を見つつ、聴きつつ、2024年夏から秋にかけ、作曲した。