伊左治 直ISAJI, Sunao(1968.5.29-)

LADY FLUTE IN THE OCTAGONAL TOWER for Flute Solo(2012)

八角塔の横笛夫人 フルート独奏のための

楽器編成
fl
演奏時間
10’30”
カテゴリー
ソロ
初演
24 September 2012. Tokyo. Naomi Oda(fl)
曲目解説
 『ある時期、浅草十二階の展望台では度々、奇妙な横笛を吹く淑女が現れたそうです。それは音楽のようでありながら風のようでもあり鳥の鳴き声のようでもあり、時には何かの合図か交信のようでもある、まこと不可思議な音曲であったといいます。浅草十二階の階下の演芸場で見世物に携わっていた犬神太吉さんは、上方から聞こえてくるその奇妙な横笛の音に興味を抱き、音曲の詳細な記述と遠目に眺めた淑女の印象を日記に残していました。関東大震災ののち、犬神さん一家は浅草から上野へ移り住みます。そしてその日記は、その後の大東亜戦争の大空襲で散逸されたと思われていました。ですが先の東日本大震災を受けて、T文化会館資料室では総点検を行ってみたところ、郷土資料としてその日記の大半が倉庫の奥底に眠っていたことが判明しました。』
この曲は、いわばその横笛音曲の再現を試みたものです。浅草十二階は明治23年(1890年)、日本で最も高い塔として東京黎明期の名所となるべく竣工しますが、しかし大正12年(1923年)には関東大震災で崩壊してしまいます。そして実際には、浅草十二階こと凌雲閣は開場当時こそ大いに賑わったものの、末期は入場者も殆どおらず廃れてしまっていたそうです。そのため妖しげな人々が出入りしていた不穏な様子も窺え、果たしてそのような夫人が実在したのか興味深いところですが、当時の“魔都”東京、あの熟成と退廃の活気溢れる大正時代の東京を思えば、あり得ない話ではありません。

そしてこの作曲当時、つまり平成23年〜24年(2011年〜2012年)は、東京はさらなる“魔都”化が進んでおりました。水も空気も放射能汚染の恐れすらある未来都市東京から離脱移住する人々も現れ、墨田には風水的にさまざまな解釈のある、新たな塔が建立されました。加えて異常気象や、やがて来る世界大運動会の準備の混迷具合に“魔都”化は加速していたと言えるでしょう。更にはこの出版譜作成当時、つまり令和7年〜8年(2025年〜2026年)には、異常気象も、もはや熱帯化といえる様相を呈し、また、街には多くの渡来人が溢れて“魔都”東京は新たな次元に進んでいるのです。
この作品は、どこかレトロフューチャーらしきものへの愛惜と、それに近づきつつある東京への哀惜を込めた音曲なのです。
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演奏に関して、たとえばテンポは厳密なものよりも音楽の呼吸感のような流れや揺れを、より重視すべきでありましょう。それはフレーズの「間」の間隔なども同様です。
奏法も微分音を運指で確定するかアンブシュアの加減によるかは、最終的には奏者各々の判断に任せたいと思うし、重音もまた、その効果が十分に得られない場合は近似の音に変更することもやぶさかではありません。そこに奏者の自主性が生まれて演奏解釈の幅が広がることは歓迎したいのです。とはいえ、ここに記載された奏法一覧は、演奏における大きな一助になることでしょう。作曲あたっては、委嘱初演の織田なおみさんから多くのご協力を得ましたが、加えてこの出版譜作成にあたっては、やはりフルート奏者の今井貴子さんにも校訂のご協力をいただきました。重ねての感謝を。また、この奏法一覧にあたっては、主に『Levine, Carin / Mitropoulos-Bott, Christina The Techniques of Flute Playing I』を参照しています。

楽器愛好家や音楽教育に携わる方々に幅広い楽器・教材を提供しています。

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