菅野祐悟KANNO, Yugo(1977.6.5-)

SYMPHONY No.2 "Alles ist Architektur"(2019)

交響曲第2番〈Alles ist Architektur ーすべては建築である〉

楽器編成
2+picc.2.2.2-4.3.2+btrbn.1-timp.perc:mar/mark tree/tgl/vib/glock/t-bells/crot/BD/gong/cyms/sus.cym/tom-t/cast/SD/tamb/rainstick-hp-pf-str
演奏時間
45’00”
カテゴリー
オーケストラ
初演
29 April 2019. The Symphony Hall(Osaka). Kansai Philharmonic Orchestra, cond. by Sachio Fujioka
録音
NIPPON COLOMBIA (COCQ-85472)
曲目解説
美術館。教会。寺院。
いつからだろう、僕は、あらゆる建造物に強く惹かれるようになりました。
その空間を全身で味わうために、日本中、そして世界中を旅するようになりました。

建築と音楽は、切り離せない関係にあると感じています。
音楽という空気の震えは、鳴り響く「場所」の影響を、容赦なく、そして豊かに受け取る芸術です。
場所によって音楽の「型」は変わります。
作曲家はスコアを書くとき、いずれ響くであろうホールの残響、空間のかたちを想像しながら、音を置いていきます。

建造物があり、その中に美術作品や音楽が芽吹き、そこへ人々が集う。
その重なり合いの上に、世界は成り立っていると、僕は考えています。

ある時、ひとつの言葉に出会いました。
音楽の都ウィーンで生まれた建築家、ハンス・ホライン氏が残した言葉です。

「すべては建築である」―― “Alles ist Architektur”。

建築の概念を大きく拡張するこの一文は、音楽の可能性を追い続けている僕の心に、鋭く深く刺さりました。

この交響曲第2番は、世界中の優れた建築とその創り手たち、
そして彼らの時間と歴史への、オマージュです。

第1楽章 ― One of the great beauties of architecture is that each time, it is like starting all over again.

「建築の偉大な美しさの一つは、毎回、人生が再び始まるような
気持ちになれることだ」

イタリアを代表する建築家、レンゾ・ピアノ氏の言葉です。
彼が手がけた建築――パリのポンピドゥー・センター、
マンハッタンのニューヨーク・タイムズ・ビル、日本の関西国際空港――は、いずれも現代を象徴するランドマークばかりです。

紛れもなく「現代の巨匠」であるピアノ氏ですが、自らを
「スターキテクト(スター建築家)」と呼ばれることを好まないそうです。
常に「最新」であろうとすること。
流行ではなく、時代と正面から向き合う姿勢――それを僕はピアノ氏から学び、深い敬意を抱くようになりました。

この第1楽章は、そんなピアノ氏に捧げる、ひとつの音楽的ポートレートです。
かつて歩いたイタリアの美しい街並み、ピアノ氏が設計したローマの音楽複合施設オーディトリム・パルコ・デラ・ムジカで聴いた
オーケストラの響き――そうした記憶が、この楽章の根底に流れています。

豊かな歴史をたたえた場所で、美しい音楽を聴くこと。
それは僕にとって、何ものにも代えがたい歓びです。

この第1楽章とともに、
「新しい交響曲が始まる」 その瞬間を、どうぞ味わっていただけたら嬉しく思います。

第2楽章 ― Architecture is the arrangement of light;
sculpture is the play on light.

サグラダ・ファミリアは、いつになったら完成するのだろう――。
そんな半ば冗談のような問いと、抑えがたい憧れを胸に、
僕はスペインの芸術に触れる旅へ出ました。

サグラダ・ファミリアを手がけた天才建築家、アントニ・ガウディ氏はこう語ったと言われています。

「建築とは光を操ること。彫刻とは光と遊ぶことだ」

敬虔なカトリック信者でもあったガウディ氏にとって、自然は何よりも尊ぶべき存在でした。

スペインの街並みは、日本のように整然とはしていません。
しかし、ゴツゴツとした石畳が太陽を反射して放つ光のきらめきは、
まさに「生きている絵画」のように感じられます。

整頓されたものが、必ずしも「完成」しているとは限りません。
むしろ未完であるがゆえに、いつまでも私たちを惹きつけるものもある――そう思うのです。

あせらず、自由に、心から「いまこの瞬間」を楽しむことができたとき、
僕は初めて、新しい音楽の入口に立てるのかもしれない。
サグラダ・ファミリアの前で、僕はそんな感慨に浸っていました。

第2楽章は、そうしたスペイン旅行の日々を思い返しながら生まれた楽章です。
スペインの芸能といえばフラメンコ。その力強い躍動感、地を踏み鳴らすリズムを、僕なりの語法で音楽に落とし込みました。

自然と共生してきた街並みの過去、そしてサグラダ・ファミリアが
いつの日か完成するときの未来へと想いを馳せながら――。

オーケストラのみなさんへ。
この10分間だけは、どうか大いに、そして自由に遊んでください。
飛び回る音たちが、やがて穏やかに着地する、その瞬間まで。

第3楽章 ― Architecture is the masterly, correct and magnificent play of masses brought together in light.

モーリス・ラヴェル。クロード・ドビュッシー。エリック・サティ。
ルイ・エクトル・ベルリオーズ。ガブリエル・フォーレ。
エルメス。ディオール。ルイ・ヴィトン。シャネル。クロエ。イヴ・サン=ローラン。

フランスの芸術から僕が受けた影響は、はかりしれません。
フランスはいつも、僕の価値観を静かに、しかし確実に塗り替えてきました。

旅先で目にした景色、耳に残る音、肌で感じた空気――
そのすべてに惚れ込み、この美しい国をもっと深く知りたいと願うのは、僕にとってごく自然な成り行きでした。

フランスには、サヴォア邸をはじめ、近代建築の礎となった建築が数多く残されています。
それらを手がけ、建築の世界に「革命」をもたらしたと評されるのが、建築家ル・コルビュジエ氏です。

彼はピロティや屋上庭園、横長の窓といった手法によって、
光とともに呼吸する「輝く都市」を作り上げました。

そんなコルビュジエ氏は、自らを
「私は心の中では音楽家であるが、実際にはちっともそうではない」
と皮肉を込めて語ったそうです。

娯楽としての側面が強い音楽とは異なり、
人が暮らす街のために作られる建築は、「住むための機械」と評されることもあります。
自由な感性と、社会のルールとのあいだ――その狭間で彼自身もまた、葛藤し続けていたのでしょう。

「建築は光のもとで繰り広げられる、巧みで正確で壮麗な
ボリュームの戯れである」

光を愛し、芸術を愛し、革命を愛した彼が、もし音楽家であったなら。
彼の死から半世紀ほど経った今、
光のようなメロディを紡いでみたいと思い立ったのです。

第4楽章 ― Things beyond the possibility remain in people’s hearts.

日本を代表する建築家、安藤忠雄氏。
四国・直島に並ぶ美術館群は、いずれも安藤氏による設計です。

その中核となる「ベネッセハウスミュージアム」は、
「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、美術館とホテルが一体となった施設として
1992年に開館しました。

建物の流麗な曲線、コンクリートの隙間から射し込む自然光、
館内に静かに佇む数々の現代アート、そして海から吹き込んでくる風。
そのどれもが心地よく、直島で過ごした時間は、まるで地上の天国のように感じられました。

安藤氏は建築家として多くの賞を受けていますが、
驚くべきことに、その評価のほとんどは、独学で築き上げた仕事によるものです。

2011年5月、安藤氏は「東日本大震災遺児育英資金」を立ち上げました。
震災後、彼は次のように語っています。

「希望は誰かが与えてくれるものではない。自分の心の中でつくるものだ。
自分の心のなかに希望をつくり、諦めずに生きてほしい。
すべての人が、人生の最後まで心のなかに自分で希望をつくり、
育て上げていくトレーニングが必要なのだと思う」

安藤忠雄さん、僕は曲を書き続けます。これからも作曲家と
して生きていきます。
「可能性を超えたものが、人の心に残る」
あなたの言葉を信じて。

楽器愛好家や音楽教育に携わる方々に幅広い楽器・教材を提供しています。

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