西村 朗NISHIMURA, Akira(1953.9.8-2023.9.7)

THE NAVEL OF VISHNU,for Piano and Chamber Orchestra(2010)

ヴィシュヌの臍 ピアノと室内オーケストラのための

楽器編成
1.1.1.1-1.0.1.0-perc(2)-hp-vn(2).va(1).vc(1).cb(1),solo pf
演奏時間
15’00”
カテゴリー
オーケストラ
委嘱
サントリー芸術財団
初演
2010. November 11,Osaka. Izumi Sinfonietta Osaka,cond. by Yasuaki Itakura,Noriko Ikariyama(pf)
録音
CAMERATA/CMCD-28283
曲目解説
ヒンズー教の宇宙創世神話図絵として有名なものに、海上に浮かぶ多頭大蛇の上でヴィシュヌ神が微睡んでいる絵がある。その絵の海はヴィシュヌの臍から流れ出た香水による原初の混沌とした無限の大海であり、多頭大蛇は無限のエネルギーを秘めた巨大蛇シェーシャ ・ ナー ガ(Shesha Naga)である。海は女性原理、蛇は男性原理の象徴かも知れない。
蛇の右回りの大とぐろ腹の上で微睡み瞑想するヴィシュヌ。その臍を見ると、なんとそこから蓮華の茎が中空に伸上がり、その先端には豊かに花弁を開いた美しい蓮華の花が描かれている。 そしてその花弁の真ん中には生まれたばかりの小さな赤子の姿でブラフマー神が立ち上がっている。ブラフマー神は宇宙を形作る神である。このあでやかで美しく夢幻的な神話と図絵に魅了された私は、20年以上前にオルガン曲〈ヴィシュヌの瞑想〉を作曲している。
今回の作品〈ヴィシュヌの臍〉は、続けて演奏される三つの部分によって構成されている。

第1部:多頭大蛇シェーシャ ・ ナーガ
32分音符の速い動きが波のようにうねり重なり、 コー ル ・アングレのリード部分のみを吹奏しての曲線的メロデイ ーがそれに乗る。 続いてピアノのカデンツァ風ソロがあり、波のうねりの回帰ののち、ピアノのトレモロ旋律が主導するヘテロフォニックな部分となる。

第2部:瞑想するヴィシュヌ
静かな持続音を背景にヴァイオリン・ ソロがメリスマ的曲線的な短い導入楽旬を奏し、続いてピアノが登場する。この第2部では、ヴィシュヌの瞑想の中に、ヴィシュヌの化身たち、すなわちAvataraが次々に現れる。化身たちは2002年に発表した私のピアノ組曲〈ヴィシュヌの化身〉からの楽句引用で示される。
最初に現れるのはマツヤ(魚)、そしてヴァラーハ(猪)、そしてヴァーマナ(矮人)、そしてピアノ・ソロでのクールマ(亀)、そしてごく短くヌルシンハ(人獅子)の順である。そのあと伸上がる蓮華の茎と花を表す経過旬があり第3部となる。

第3部:花弁の中で
今回、内包曲として、取り出し可能なピアノ小曲をこの作曲に含めることを試みたが、そのピアノ曲〈花弁の中で〉が、ここで奏される。このピアノ曲は花弁の中に眠る胎児であるブラフマー神への子守唄のようなものであるが、その左手はインド古典音楽における普遍不変の絶対調和の背景音響、すなわちナーダ・ブラフマー Nada Brahma(宇宙音)を模しており、花弁の中で偉大な胎児の生育を讃える意図を持って作曲されている。

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