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西村 朗NISHIMURA, Akira(1953.9.8-2023.9.7)
MEDITATION KARUNA FOR STRINGS(2012)
弦楽のための悲のメディテーション
- 楽器編成
- str
- 演奏時間
- 12’00”
- カテゴリー
- オーケストラ
- 委嘱
- 山形交響楽団
- 初演
- 2012. May 18,Yamagata. Yamagata Symphony Orchestra,cond. by Norichika Iimori
- 曲目解説
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この作品は山形交響楽団の創立40周年記念委嘱作品として2012年2月から4月にかけて作曲したもので、前作〈オーケストラのための「桜人」(2010)〉に続く、山形交響楽団のコンポーザー・イン・レジデンスとしての第二作にあたる。今作の作品は私にとって初めての弦楽オーケストラ曲(管楽器や打楽器等を一切含まない)であり、弦楽合奏の表現領域や可能性と全身で向かい合いチャレンジを試みる作曲となった。まず、弦楽合奏のもつ音楽的な「言葉」を多面的に考えて捉え直し楽案を練ったが、その過程で4種の性格の際立ち異なった音楽シーンを創作イメージとして得、それらによって冒頭の主題提示部を構成することとした。
その4種とは、
1)曲頭、ヴァイオリンとチェロのかすかにうごめくような金属的なトレモロ波の絡みに包まれてヴィオラが熱っぽく旋律を奏する。
2)東アジア的な短旋律が速度の異なる動きでパッショネートに、カノン状に重なる。
3)突然出現するアレグロのフガートの断片(このフガートは、突然頭に浮かんで離れなくなったもので、浮かんだ場所は寒いJRの上野駅。いささか奇妙な体験だった)。
4)高い音域でのシンプルでかつエスプレッシーヴォな旋律線。
これら音楽シーン(楽想)は、それぞれ言葉では表現出来ない人生における4種の感情を象徴させていると言えるかもしれない。弦楽合奏には旋律的な表現にとどまらない不思議な表現力(微妙な音色性や響きの質感の多様性、発音時や持続の変化の多彩性等)があり、人間の生理と密接に結びついた情感の音楽音響的描出において特別な可能性があると思われる。この曲は、冒頭部分の約2分間で提示されるこれらの4種の音楽シーンの変容、発展、融合によって成っている。全体の演奏時間は12分程度。タイトルにメディテーション(瞑想曲)とあるにしては、変化の激しい面を持っているが、それは同じくタイトル中にある「悲(ひ)」と関係があり、ここで言う「悲」は仏教の「カルナー」のことである。それは人生の苦海(仏教では生きることはすなわち苦業である)にあって様々な思いを持って生きる人への同情同苦を意味している。尊ぶべき概念であると思う。この曲に現れる感情の変化と波は、すなわち「カルナー」についての作曲者の思いと、自身の体験を重ねての、生と死についての一種の瞑想に起因している。
解説としての言葉にすればひどく難解な曲のようだが、それほどのことはなく(演奏の難しさは別として)、音楽的な表情は概ね直截で、時として素朴赤裸裸であるようにも思う。曲の最後は、con tristezza(哀しみを伴って)の表情指示を付した、ヴィオラの低いF音の最弱奏の持続音で消えてゆく。
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