PADMA，for Guitar（2019）

世界的な巨匠であるギタリスト、福田進一の委嘱によって2019年春に作曲。福田進一に捧げられている。作曲にあたっては福田氏から多くのアドバイスを受けた。さらに出版にあたっては詳細な運指表記を加えていただいた。
　「パドマ」とは仏教において魂を救済するとされる聖なる紅蓮華のこと。この独奏曲はそれをタイトルとする一種の幻想曲ないしは瞑想曲。作曲中、常に福田進一の艶やかで官能的な響きと、多彩で幽玄なまでに懐の深く広がりのある演奏表現世界が頭にあった。それゆえに音楽的情景はさまざまに変化するが、とくに求めたものは官能性や陶酔性、そして喜悦を伴った祈りの歌（朗唱）である。
　瞑想的に揺れるアルぺジオに始まり、神秘的にと指示されたドルチェ・カンタービレとなる。そのあとに技巧的な速いパッセージ。そしてMantraと記されたところから祈りの儀式的な趣きを持った主部となる。その中心的かつ象徴的なイメージはパドマ（紅蓮華）。
　響きと動きが高揚したのち静まり、透明なハーモニクスによる浄化を挟んでの再びの高揚を経て、最後はアダージョ・ミステリオーソ。瞑想的に揺れる響きは甘美な夢の中に溶けるように消えてゆく。