西村 朗NISHIMURA, Akira(1953.9.8-2023.9.7)

Chamber Opera "ESHI”, for Soprano, 4 Dancers, Flute, Clarinet, Piano, Percussion, Violin, Viola and Cello(1999)

室内オペラ《絵師》 ソプラノと7人の奏者と4人のダンサーのための

芥川龍之介:短編小説「地獄変」(原作)、西村朗(台本)
楽器編成
4 dancers, fl, cl, pf, perc, vn, va, vc
演奏時間
68’00”
カテゴリー
オペラ 他
委嘱
ハノーヴァー現代音楽協会、ニーダーザクセン・ハノーヴァー国立劇場(共同委嘱)
初演
1999. May 30, Hannover. Noriko Ogawa-Yatake(sop), Marc Boermans, Vladimir Marinov, Beatrice Gutt, Dennis Grenz(dance), Lorenz Hellgardt(fl), Clemens Trantmann(cl), Christof Keymer(pft), Andrea Schneider(perc), Hans-Christian Euler(vln), Anna Schultze-Florey(vla), Marion Zander(vlc), cond. by Martin Brauß
曲目解説
この作品は、ドイツ・ハノーヴァーの現代音楽祭「ハノーヴァー・ビエンナーレ」の委嘱により1999年に作曲。同年5月30日、同音楽祭において世界初演された。 題材は芥川龍之介の小説「地獄変」。台本は作曲者自身が作成。 舞台構成は文楽にヒントを得ている。すなわち、ひとりの歌い手が劇的な歌唱によって、登場人物たちの心境を表現するが、通常のオペラのような身体的演技は伴わない。身体的な表現は無言の4人のダンサーたちによって行われる。両者の関係は、文楽における歌い手と人形のそれに近い。しかし、 この作品においてダンサーたちは必ずしも具体的、ないしは写実的に物語進行を伝える必要はない。より「抽象的」な表現も許容され得る。ただし各ダンサーの役柄は固定されるのが望ましい。

『時』 15世紀頃(室町時代)。『場所』京の都。『登場人物」』*将軍、*良秀(将軍に仕える絵師)、*良秀の娘 (将軍の侍女)、*良秀の弟子。

全体は8つの音楽シーンによって構成されている。切れ目は無い。以下、各シーンについて、台本の内容にそって述べる。

[Ⅰ]将軍…将軍の登場。尊大にして残忍、好色な性格。この世を支配し、魔物などは寄せつけぬという、絶大な権力者の驕り高ぶり。冒頭の大太鼓と鈴の強奏は、将軍を示すモチーフ。これ以後、全曲にわたってしばしば現れるピアノのミュート奏は、イメージにおいて、文楽の太棹(三味線)の響きとつながっている。

[Ⅱ] 良秀の娘…鋭敵な感受性を持つ美しく清純な娘。そのみずみずしく淑やかな姿と心境を、春の3つの和歌に託して表す。

水の面に 綾織り乱る春雨や 山の緑をなべて染むらむ(作歌:菅原孝標の女)
浅緑 花も一つにかすみつつ おぼろに見ゆる春の夜の月(作歌:伊勢)
風通ふ 寝覚めの袖の花の香に 薫る枕の春の夜の夢(作歌:皇太后宮太夫俊成の女)

[II]将軍と良秀の娘…将軍は娘に迫り、手込めにしようとする。娘の必死の抵抗。言葉でのテキストは短い。その後、情景は器楽合奏、ハミング、息音などで表現される。最後はピッコロとピアノの激しい響きを伴う将軍のモチーフの一撃。

[IV]良秀と将軍…良秀の登場。良秀は将軍に、娘の身を自由にして自分のもとに返してくれるよう懇願する。これに対し、将軍は一つの条件を出す。見事な地獄絵を描いてみよ、されば娘は返してやる、と。

[V] 良秀とその弟子…ピアノの独奏に始まる器楽の前奏。良秀は地獄絵の制作に全力を傾ける。リアルなイメージを求めるあまり、その弟子を縛り、拷問のように痛めつける。芸術至上主義者良秀のエゴイズムと残酷さが露呈される。しかし弟子の苦悶の姿では得られぬ重要な情景がある。それは天から炎に包まれて落ちてくる牛車。その中に、身を焼かれる高貴な女人。それが描けない。

[VI]将軍と良秀と娘…罪人の女を中に縛り入れ、炎上する牛車を実際に見たいという良秀の申し出を、将軍は不気味な微笑を持って受け入れる。そしてその日、恐ろしい炎に包まれる牛車の中に良秀が見たもの、それは何と焼け死にゆくわが娘の姿だった。さあ描けと命じ、あざけり哄笑する将軍。絶叫する良秀。

[VI] 将軍と良秀…地獄絵は仕上がった。その出来栄えの見事さに喜ぶ将軍。弱き愚かな者たちが死してなお苦しむ姿は面白い、地獄は滑稽なところと言い放つ。

[VII] 良秀(モノローグ)…自殺を決意した良秀。自らもまた地獄絵の中に入らんとする。そして将軍への最期の独白に言う。その空しい哄笑があなたのすべて。あなたはこの絵の中には入れない。あなたの地獄はもっと恐ろしい地獄。あなたはそこへけたたましく笑いながら入ってゆくことだろう。あなたの地獄、その名は「虚無」、と。(日本初演時のプログラムより)

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