西村 朗NISHIMURA, Akira(1953.9.8-2023.9.7)

VIKARALA,for 12 Players and Strings(2020)

12奏者と弦楽のための〈ヴィカラーラ〉

楽器編成
1(picc,alt).1.1(bcl).1-1.1.1.1-perc(2)-hp-pf-str
演奏時間
22’00”
カテゴリー
オーケストラ
委嘱
いずみシンフォニエッタ大阪
初演
2020. July 4,Osaka. Izumi Sinfonietta Osaka,cond. by Norichika Iimori
曲目解説
この作品は、12名の奏者、すなわちフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバ、2名の打楽器奏者、ピアノ(チェレスタ)、ハープと弦楽合奏のために作曲されている。12名の奏者には、それぞれに個性的なはたらきをする独奏的な箇所が設定されている。したがって全体としては一種の“管弦楽のための協奏曲”である。

 奈良の新薬師寺(8世紀半ばに建立)には、有名な国宝「十二神将像」がある。薄暗い堂内中央の大きな円形台座の中央にふくよかな薬師如来(本尊・国宝)が座し、それを外敵から保護する等身大の十二神将が、円周上で外側を睨み威嚇するようなポーズで立ち並んでいる。見るものを釘づけにする超現実的で凄絶な光景である。十数年前、偶然にも人の気配がなく、ただ一人初めてこの堂内に立ち入った時、まさに心身は震え、凍りついた時間の中での幻聴を体験。なにか、おそろしいほどに激しく骨身に響くものを感じた。
 薬師如来は人身健康の保護者であり、生きとし生ける者の命や魂そのものの象徴であり、化身でもある。8世紀の人々がいかなる思いで、この仏に全身全霊で祈りすがったかは、仏を保護する神将達の凄まじい諸態に投影されている。その極限的な切実さに、生きるということの意味を新たに痛感し、長く合掌した。その合掌の記憶が、時を経てこの作曲となったと言えるかもしれない。年齢を得て、命についての今の思いが、あの新薬師寺の堂内へと作曲者を再び導いたのであろうか。
 全体は続けて演奏される5つの部分から成っている。
〈I〉 導入部:打楽器、チェレスタ/ピアノ、弦楽による。
〈II〉 情景1 :オーボエの独奏に始まり、管楽器群中心。
〈III〉 情景2 :弦楽合奏。
〈IV〉 情景3 :総奏。スタッカートでのスケルツォ的プレスト。
〈V〉 情景4:終曲。ハープ独奏に始まる。変化の多い展開。ざわめきの余韻の中で消える。

 タイトルのVIKARALAは十二神将像の一つ毘羯羅(びぎゃら)大将のことで、釈迦如来の化身とされている。子(ね)の年や方角などの守護者で干支頭ゆえか、十二神将の筆頭に名が挙がることが多いようである。12奏者と十二神将のそれぞれに固定的な結びつきは設定されていない。

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