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【曲目紹介(その3)】11/30(金)「四人組とその仲間たち」コンサート新実 徳英《トランペット・ソナタ — 暗き森にて》
全曲が世界初演の「四人組とその仲間たち」コンサート。
当日初めて発表される新作について、少しだけその内容をお知らせします。
第3弾は新実徳英さんの新作についてです。
新実 徳英《トランペット・ソナタ — 暗き森にて》
- 演奏:曽我部 清典(tpt)、寺嶋 陸也(pft)
演奏所要時間:約14分
作曲者による解説
- ソナタとしたのは、ソナタというものに格別な思い入れがある訳ではなく、自分に対して「古典」を常に意識せよ、と命じておきたかったからです。この場合の古典はバッハからベートーヴェンあたりまでのイメージです。私としては構成法、対位法などを常に古典から学びたいと考えているのです。
昨年の3.11以降の異常な事態に私自身が過度に反応せざるを得なかったのでした。〈つぶてソング〉全12曲もその結果生まれたものですし、それらを含むA.E.1〜10番(A.E.= After the Earthquake)を昨年作ったのでした。ちなみに今回の〈トランペット・ソナタ〉はA.E.18番となります。
さて、副題の─暗き森にて─について、少しお話しします。
これは『神曲』(ダンテ)の地獄篇第一歌による。原文を記す。
Nel mezzo del cammin di nostra vita
mi ritrovai per una selva oscura
che la diritta via era smarita.
われらの命の道の半ばで
暗い森林にいると知ったが
正しい道から それていたのだ (今道友信訳)
七十路の人の命の中程にて、正しき路を失えりし
我は、とある暗き森の中に我自らを見出き (生田長江訳)
副題を付した理由の一つは、先般哲学者今道友信先生が亡くなられたことを副題に刻み込んでおきたいと願ったことによる。先生は私のような不明なものの足元を照らして下さる「光」であった。(私のエッセイ集『風を聴く 音を聴く』の題字をいただいたりもした。)そして私がダンテに興味を持ったのは[ダンテ『神曲』の講義](みすず書房、今道友信著)を読んだからであった。
もう一つの理由はこの第一歌の内容と関わりがある。2011年の作曲生活は先述のようなものであり、私は半ば熱に浮かされたように、あるいは取りつかれたように作曲を続けたのだったが、2012年に入り、自分の仕事もやや落ち着いたペースを取りもどしたところで、「今の自分はどのように生きているのか」、「今の生き方で良いのか」という思いが去来するようになった。ただし、正しい道がなんであるかわからないのだから、自分が「正しい道からそれて」いるのかどうかもよくわかならい。
自分が被災地の方々に対して無力であることは重々承知していることだし、僕たちが音楽創造に全身全霊をかけること以外に生きる道がないこともよく解っている。が、それだけなのか、という問いがいつも自分の中を巡るのである。
「正しい道とは何なのか」、これを自身に問う、そのためにこの副題を記すことにした。
答えは自分で見つけていく他ない。今は一つ一つの作品がその道程を導いてくれるものであるよう祈るのみである。
(新実 徳英)